ある日のメンヘラの話~個人間融資家とソープ嬢と自殺旅行①

連日の大雨のせいか、

窓の外、遥か空の彼方までどす黒く淀んでいた。


もうだめだ、死にたい...

20歳になったばっかだけど私にはわかる。

私は幸せになんてなれないって事。


彩音は出稼ぎ先のソープの寮の近くのコンビニで買ったカッターで、

手首のバーコード型の傷跡をまた一つ増やした。


真っ赤な血が洗面台に流れていくと、眠剤と安定剤をおかわりした。


今日のラストの客にガシマンされたせいで、膣も痛い。胃も痛い。胸も痛い。


顔が小さくて目が大きくて、

細い体とあどけない口元は、

一人にしておいて大丈夫かと思うくらい幼い少女のようだった。


つい3時間前、

彩音は担当ホストのLINEをブロックした。

グル〇ンと冬〇に担当がいたが、2人ともブロックした。


岡山のソープは保証8万だ。

出稼ぎは、客が1本もつかなくても最低保証はもらえる。

閑散期の11月にしては8万は悪くない金額だ。


でも担当2人には保証4万と言っていた。

どちらの担当の店にも百万円近い売り掛けがあるからだ。


「出稼ぎ行って売り掛け返すから待って」

と言ったからには、日給のほとんどを返済に充てないと相手も納得しない。

それが相手が2人もいたらどうなるだろう。


嘘の上塗りの毎日が始まるに決まってる。


当然グル〇ンの担当からは、

「保証4万なんてありえねえぞ。

そんな安い店辞めて東京戻ってこい。

スカウトやってる友達が保証8万の店紹介してくれるから」

と言われた。


どんなLINEを返せばいいんだろう。

嘘の上塗りをしている自分は最低だ。

みんなに私が悪いと思われる。

どうしよう。どうしよう。


プルルルルル

そんな時金融の田中さんから着信が鳴った。

明日は返済日だった。

忘れてたわけじゃない。

次々にいろんな問題が襲ってくるんだ。


どうしよう。どうしよう。

死にたい。死にたい。


LINEも電話も出れないし折り返せない。


3時間後、彩音眠剤を飲んで手首を切って、また眠剤をおかわりしていた。


起きたら朝だった。

ここはどこだ、出稼ぎ先のソープの寮だ。

携帯には着信90件、金貸しの田中さんからだ。

LINEはブロックしてるから、何も来てない。


あと1時間で寮にソープの内勤が迎えに来る。

準備しなきゃ、でもやる気が出ない。

とりあえず田中さんには弁護士を入れよう。

もう逃げたい。



スカウト以外全ての電話をバックれて

出稼ぎ2週間を終えて新宿に帰ってきた。

彩音の手元には130万あった。


自宅マンションのエントランスのオートロック開け、エレベーターに乗って、7階で止まって開いた瞬間、

田中さんともう1人誰かいた。

多分田中さんの仲間だ。


「回収に来ました。カバンを預かりますね。」

田中がそう言うと、もう1人の若い男が彩音のカバンを取った。


だめだ。

全額取られる。

死にたい。死にたい。


「私死にます!」

叫んでしまった。

涙が止まらない。

私はみんなからクズだと思われる。

いやもう思われてる。


「そうですか。じゃあ崖までお連れしますか?」

田中さんはいつもの笑顔でそう言った。


「連れてってください!死にたいです!」

私は叫んだ。



田中は運転手で連れてきたアキラを返し、カローラに乗り込んだ。


田中が運転席、彩音は助手席に乗った。

車は新宿から甲州街道を進んだ。

「どこ行くんですか?」

そう聞くと、田中は笑顔でこう言った。

「日光華厳滝からダイブすれば一発で死にますよ。死ぬ覚悟があるなら痛いのは我慢できますよね?」

なぜか笑顔だ。

この人はなんでいつもこんなに楽しそうなんだろう。

田中はきっと人間の心がないんだ。


こうして田中と彩音の自殺旅行が始まった。


~②へ続く