ある日の夜の話~個人間融資家とキャバ嬢の愛人契約②
日が陰る頃には表参道に到着した。
表参道の美容室の店長には先に電話で行く事を伝えてあった。
店長が僕から15万借りていることは他の誰も知らない。
昨日の夜、店長に電話でカットモデル撮影にましろを使って欲しいと頼むと、喜んで引き受けてくれた。
「いらっしゃいませー、あー田中さんカットモデルの方はこの子ですか?」
そう。ハーフのファッションモデルみたいな感じにしてね。
僕がそう伝えると店長はましろを席へ案内した。
表参道に着いてから車の中で起こされたばかりのましろは、何も聞いてないよ?とまん丸の目でうったえていた。
待っている間、ましろ用のTwitterとFacebookとインスタグラムのアカウントを新しいiPhoneで作った。
iPhoneを手にして広告を作り出すと、僕は仕事本気モードになってしまう。
SNSを作るのが楽しくてしょうがない。
かわいいじゃん。写真うつりもモデルみたいで綺麗だよ。
僕はカットされたましろに素直な感想を言った。
「何でカットモデルなんですか?この後どこ行くんですか?」
ましろはまだきょとんとしていたが、
それには答えず、
お腹すいた?
と僕が聞くと、
ましろは「はい!」とトイザらスに連れて行ってもらう子供みたいに無邪気に答えた。
新しく原宿に出店したニューヨークのパンケーキの店は、連日ひどい並びようだった。
ましろは「1時間も並ぶんですか?」と不満を言っていたくせにテンションが異様に高く、
「ねえねえ見てくださいよ!もう夜なのにうちらの後ろにどんどん並んでますよ!夜でもパンケーキ食べるんですね!」
とマシンガントークではしゃいでいた。
スイーツの盛り付けが可愛かった。
僕が、
ましろ、スイーツ持って。撮るから。
とiPhoneを向けるとアイドルみたいにあざとい顔で笑った。
僕が勝手に頼んだロイヤルミルクティーを飲もうとして火傷しそうになったましろを見て、今回の仕事はうまく行くと確信した。
「なんでお金ないのにCHANELなんですか?」
いいからいいから、と僕は表参道のブティックにましろを連れて行った。
これ着なよ。似合うよ。と新作のワンピースを渡すと、ましろは
「えーこっちがいいー」とだだっ子のように違うワンピースを手に取り試着室へ向かった。
「やっぱさっきのやつがいーかなー?」
と着た服のすそをさわるましろを、僕はiPhoneで撮った。
写メ自分で見て比べてみなよ。僕が選んだやつの方がいいよ。
と僕は自分のセンスを押してみた。
「あー楽しかったですね」
楽しかったね。でも疲れたね。
僕らは原宿から渋谷に移動して服を買ったり食べ歩いたり、
足が重くなるくらい遊んだ。
結局服は109で安いのを買ってあげた。
「で、夜はパパ探し行くんですよね?」
行かないよ。ナイトプール行こ!
「今日は楽しかったけど、パパ探しはどうするんですか?」
ちょっと怒らせてしまった。
ましろは僕が今までずっと仕事モード全開なのにまったく気づいてなかったようだった。
説明するしかないようだ。
とりあえず今日カットモデルやった美容室のホームページ開いてみな、と僕はiPhoneを取り出した。
ましろは美容室のホームページを見ると目をまん丸にして口をとがらせ、ひょっとこみたいに驚いた。
「え?『ファッションモデルの折原ましろさんにカットモデルお願いしました』って書いてありますよ?」
店長は頼んだとおりに書いてくれていた。
僕は楽しくなってきて、ましろ用に作ったTwitterを見せた。
「折原ましろ☆関西ガールズコレクション2018☆ニューヨークでファッションモデル2年☆東京でモデル活動中☆アクセサリーデザイン...全部ウソじゃないですか!」
ましろは顔を真っ赤にして腕を振りながら僕にiPhoneの画面を突きつけた。
まだ写真がそろってないから、もう少し撮ったらましろに話してインスタに上げようと思ったんだ。
と説明口調で話すと、
「そっか、パパって本来モデルが使う言葉ですよね!」
ましろはやっと理解した。
本来『パパ』とは金持ちがモデルの卵を育てる育成ゲームみたいな遊びをする人の事を言う。
キャバ嬢や風俗嬢が「パパがほしい」と言うのは本来意味不明な発言だ。
そこに気づいたら話は早い。
ファッションモデルにしてしまえばいいんだ。
最新の人気スイーツを食べたり、高級な服を着て写真を撮れば、わりとそれっぽくなる。
撮影なんて新宿のスタジオでいくらでもできる。
「じゃあ今から水着撮りにナイトプール行くんですね!」
納得したとたん、ましろは悪いイタズラを思いついたネズミのジェリーみたいな顔で僕の手を引っ張り、
「プール行きましょ!バンバン撮ってください!」
と勢いよく走った。
すこぶる機嫌がいい時のましろ様には誰も勝てない。
僕は流されやすいから余計逆らえなかった。
じゃあ帰ろっか。車で送るよ、と駐車場へ向かうと、
「最高に楽しかったです!モデルになるなんてわくわくしますよ♪」
残念ながら本当にモデルになるわけではないが、楽しそうにしてるから何も突っ込まなかった。
ましろを家まで送っていると、携帯が鳴った。
先月7万円貸した医療機器メーカーの営業マンからだ。
「ファッションモデルの女の子の接待の件、ドクターはあさってがいいそうです。」
医療機器メーカーの社員は医者の接待が仕事だ。
「このクソドクターは開業医で、俺たち営業マンに運転手やら掃除やらさせて、自分の事を神だと思ってるんですよ。ファッションモデル囲うなんて見栄っ張りのドクターにはたまんないでしょ」
どうやら性格に問題がありそうだが、金を持ってるのは間違いない。
場所はホテル以外ならどこでもいいんでセッティングしといて下さい、と言って僕は電話を切った。
明日は韓国人からスーパーコピーのエルメスのバーキンと財布とルブタンの靴が届く。
ダイヤのネックレスは嫁から借りよう。
人は金を持ってそうな人を、価値がある人間だと勘違いする。
高級ブランドを持っていれば、この人は大物なんだ、と錯覚する。
女に金を出す人間なんて簡単にコントロールできる。
3日後、愛人契約一ヶ月100万円、ましろは現金先払いでもらった。
僕に半分の50万円をくれたましろをドクターの家まで送っていくのは、ちょっと寂しかった。
僕は気持ちまで流されやすいようだ。
終
あとがき
作品の中では僕とキャバ嬢の2人の物語でしたが、実は僕ではなく社員のアキラが愛人契約のプロデュースをしました。
お客さんを通してパパになる医者を連れてきたのは僕です。
キャバ嬢の方も風俗嬢の方もみんな「パパほしい」って言うけど、
90%詐欺だから気をつけてください。
「毎月50万あげるよ。」
と言われ、
「本当に愛人になる覚悟があるか証明して」
と言ってホテルに連れていかれ、
セックスだけして逃げられるケースもお客さんからよく聞きます。
世の中汚い野郎ばっかりです。
なお、本作の登場人物は実際と異なる名前を設定しております。