ブラック個人事業主の社員の物語①~アキラは今日も睡眠不足

ブラック個人事業主の社員の物語①~アキラは今日も睡眠不足


今回は田中と一緒に働いている、私梅田彰が執筆しました。


労働基準法無視のブラック個人事業主の下で馬車馬のように働かされる

おしんのような物語です。


是非ご覧下さい。



枕元のiPhoneがけたたましく鳴った。

頭は痛いし死ぬほど眠い。

一体何時だと思ってるんだ。


見なくても誰かわかってる。

休日の朝、めざましテレビが始まるかどうかの時間に電話してくるやつなんて田中くらいしかいない。


明日は休みとりますね、と言った時、わかった、と言うから昨日は横浜関内のキャバクラで朝まで飲んで、

田中の行動範囲の外の街で今日はゆっくり寝ようと思っていたのに。

ホテルに着いて1時間もしないうちにこれだ。

若い人間に嫌がらせをするのが趣味なんだろう。


不満は田中のカローラの故障箇所くらいたくさんあったが、

とりあえず電話に出てやった。


「もしもし、田中さんは朝が早いですね」


田中にはイヤミは効かないらしく、

「おはよ。解体屋に送ってるおっさん電話出ないよ。」

と開口一番仕事の要件を言ってきた。


田中は個人融資家だが、俺は田中にもう一つのビジネス、人材派遣を任されている。

建設業や家電量販店にスタッフを派遣する仕事だ。


普通は求人で集めたスタッフは、工事現場を1日でバックレたり、寝坊して怒られるのが気まずくてそのままいなくなったりする奴らが8割だ。


でも田中は、取引先の解体屋の橋本親方から絶対の信頼を得ている。

田中の紹介は飛ばない。


そりゃそうだろう。

面接したスタッフを現場に送る前に、

スタッフの家に行って家族とご飯を食べたり、

スタッフの友達も呼んで酒を飲んだりして、

田中は好きなスタッフしか現場に送らない。

それでもスタッフがバックレたら、

ヘルメットかぶって自分が代わりに現場に行くのが田中という男だ。


今回はアキラが派遣したおっさんが初日の朝で連絡つかなくなり、

橋本親方から田中に電話がかかってきたようだった。


「でアキラどこいるの?」

横浜です、と答えると、田中は

「やっぱりアキラは横浜で待機してたんだね。代わりに現場行って仕事してきて。」

と、また無茶を言い出した。


もちろん俺は

「嫌ですよ休みなんだから」

そう言って電話を切った。

田中に付き合ってられない。


まあ偶然作業着、ヘルメット、安全帯と安全靴もキャリーバッグに入ってるし、とりあえず橋本親方には電話した。


「アキラちゃんどこ?横浜かーありがとね。そっから現場までどれくらい?」

20日ぶりの休みを皆そろって台無しにしてくる。

仕方ないから用意していた寅壱の作業着に着替えながら答えた。

「現場から近いホテルにいるんで20分もしませんよ。」


吐きそうだったから水をがぶ飲みして、すぐに現場に向かった。


現場の白い仮囲いが見えたから、橋本親方に電話した。

着きましたよ、とアキラが言うと、

「アキラちゃんごめんねー。今日からのおっさん電話出たよ。寝坊したけど今電車で現場向かってるって。」


いいですよ親方のせいじゃないでしょ、と答えて電話を切ると、

あまりにも眠いので近くの立体駐車場に止めて車で寝た。


今度は田中が絶対寝てる時間に電話してやろう。


思えばあの日、Twitterなんて見なければ良かったんだ。

なんであの時あんなやつの話を聞いてしまったんだろう。