ある日の昼下がりの話~個人間融資の日常②

ステレオでTwiceをかけて第一京浜四車線を飛ばすとつい口ずさみたくなる。


今日も昼ごはんはハンバーガー。

お客さんの元へ向かいながら食べるから、いつもおにぎりかマックしか選べない。

せっかくこの前ジョギングして落としたカロリーが水の泡だ。


1件目横浜の後は2件目相模原に融資だ。

最後は品川で夜の融資。


帰って集計が終わる頃には夜中の1時を回っているだろう。

僕の365日は毎日こんな感じだ。

サラリーマンはやった事ないが、週に一度休みがある生活なんて信じられない。

こんなに楽しい仕事を休んで何をするのか思いつかない。


東神奈川駅に着くと、

初めましてのお客さんだから到着の電話で服装を聞いて確認する。


黒のTシャツを着た大工のおじさんが先について待ってくれていた。


僕は銀のカローラを止めて運転席の窓を開け、会釈した。

こんにちは。融資の田中です。

「あーどうも遠いとこすいません」

にこにこして挨拶してくれた。

ネットで連絡して本当に来るのか不安だったのかな。


相談内容は、今借りている金融業者がきつくて生活できないという事だった。

最初は闇金の話かと思っていたが、闇金ではなく貸金業登録している正規業者の話だった。


「月3割近く取られてるんです」

貸金業登録している正規業者なのに月3割なんて最近少ないが、平成2911月現在もそんな裏金融が実在する。


神田の消費者金融アイ〇〇スは、8万円借りたら一ヶ月後に10万円1500円を完済しなければならない。


普通に考えたら違法だが、アイ〇〇ス

のやり方はこうだ。


『10万を融資します。1500円の利息を付けて来月完済して下さい。

ただし、あなたはこのままでは審査が通らないのでこちらの保証会社を付けてください。

保証会社の料金は2万円になります。

ですので本日お渡しできるのは8万円になります。』


なるほど合法だ。


お客さんの給料はいくらですか?

20万です。家賃とご飯代を引いたら毎月十万も残りません。毎月完済する約束だから、給料日になんとかアイ〇〇スに101500円を持っていくんです。でも返したと同時にまた借り直して、結局毎月2万ちょっと取られるんです。」


なるほど完済するルールだからまた借りざるを得なくなり、毎月保証会社の料金という名目で利息を取られているのか。

綺麗なアリ地獄だ。


債務整理しましょ。

僕は率直な意見を言った。

相手は闇金じゃない。

会社に嫌がらせをしてくる事は無いですよ。

「弁護士ってお金かかるでしょ?」

弁護士の代金は僕が貸します。

弁護士の先生には僕から分割払いの話をしておきます。

「分割できるんですか?」

大丈夫ですよ。

そもそもお金がないから債務整理するのに、いっぺんに手付金を払えるとは弁護士先生も思っていない。

「お願いします」

大工のおじさんはゆっくり頭を下げた。

その言葉を聞いたら僕は責任を持って最後まで対応する。


余談だが、

昔から金融問題に強い弁護士は、あまり広告を出さない。


例えば、

しも〇〇し事務所は事務的な話し方だ。

「私〇〇法律事務所の者です。△△さんの代理人となりました。」という連絡をするだけだ。

債権者からしたらこんな電話が来ても無意味だし、普通に家を知っているから自宅に来られておしまいだ。

会社にも嫌がらせが来るから仕事もクビになる。

能力のない司法書士なら使わない方がいい。


事務的な対応と六法全書の知識で解決できる金融トラブルなんて、この世の中に存在しない。


金融トラブルは極めてデリケートな案件だ。

家族や会社に迷惑を掛けたくない、家に来られたくない、

債務者のいろんな気持ちを逆手に取って回収にくる。

六法全書の知識で家族や会社への迷惑を防ぐことはできない。


半分くらいの弁護士や司法書士は手付金をもらう事しか考えてない。

ネット広告を大々的に出すと、有名になるから手付金も取りやすい。


だが中には有能な司法書士もいる。


例えば兵庫の鈴木厳士先生は間違いない。

ここでは名前は出せないが、東京にも有能な先生はいる。


本題に戻ろう。


僕は大工のおじさんに東京で一番能力の高い先生を紹介した。

弁護士に払うと財布の中身がカラになるという事で、

生活費も融資した。

でも結局こうなったのはパチンコのやりすぎだ。


ギャンブルの病気は簡単に治らない。

勝手にパチンコ屋に足が向かってしまうのを止めることはできない。


そんな自分とうまく付き合って生きていくには、

給料が入ったら口座に10万入れて、

通帳とキャッシュカードを川に捨てるか、

親に預けるしかない。

自分を管理する方法は自分で考えればきっとわかる。

あとはやるかやらないかだ。


僕に相談に来る方には、

まともな生活に戻ってほしい。


ちゃんと家賃と携帯代を払って、

闇金に借りずに、

パチンコやキャバクラも給料の範囲で使ってほしい。


毎日金に追われて頭を抱え、

ストレスで消耗する生活から解放されたら、

どんなに気分が晴れることか。


返済日は給料日に合わせた。


全額返せないのはわかっている。


3ヶ月かかっても4ヶ月かかってもいい。


その代わり、人と人との約束を破るような汚い事だけはしないで欲しい。

あとは何も文句は言わない。


この人なら大丈夫?

そんなのわからない。

僕は人の心が読める超能力者じゃない。


でも僕は大工のおじさんの事が好きだ。

昔ながらの職人で、

金が無くても若い職人にご飯をおごってやるタイプだろうな、と思う。

やっぱりパチンコと酒は大好きだ。


「ありがとうございます、助かりました」

僕はつぎのお客さんの家をナビに入れてアクセルを踏んだ。


感謝される事もあれば、恨まれる事もある。


お客さんと友達になる事もあれば、

騙された経験もある。

若い頃はお客さんと恋したりもした。


個人間融資はただの仕事じゃなく僕の生き方だ。


10年後もっと経験を積んで大人になった僕は、

もっとお客さんにとっていい融資ができるといいな。


今は自分にできることを精一杯やるしかない。